ライフ・オブ・パイ専用ザク格納庫

映画ライフオブパイの超長編ネタバレ/その他映画のレビュー/あと気がむいたときに羽生くんを応援

ライフ・オブ・パイ

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●オープニング・テンプレ●●●●●●●●●●●●●●●●●●
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このブログは映画『ライフ・オブ・パイ』の、激ネタバレ レビューです。
映画をまだ観ていない方はご遠慮ください。
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すでに作品を鑑賞済みの方は、
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↓スタート
2013年10月30日→http://d.hatena.ne.jp/chap-chap3/20131030
2013年10月31日→http://d.hatena.ne.jp/chap-chap3/20131031
2013年11月01日→http://d.hatena.ne.jp/chap-chap3/20131101
2014年01月25日→http://d.hatena.ne.jp/chap-chap3/20140125

…以下、カレンダーか記事の一覧から
2014年4月〜 の順にお進みください。.
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【ビシュヌの島】.
誰でもそうだと思いますが、一回目、映画を観終わった後で一番 気になるのは、あの人食い島はいったい何を意味しているのか? ということだと思うんです。
ミーアキャットは? 池は? 果実の中から出てきた歯は??? 
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意味深なモチーフの数々を、一足飛びに解き明かそうとしても当て推量に終始するだけで答えは出ません。
パイが誰とどのように漂流したのか、空白の227日を埋めるのが先決。
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どんでん返しのショックに惑わされず、『コックの話』の矛盾を見抜いて、外堀から順々に埋めていって、
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家族で漂流
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兄、母の死
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父子の漂流
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父の壮絶な遺言・自己犠牲
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特殊な状況下でのパイの選択
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慣習とモラルの識別…
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と考えを進めていけば、あの島に象徴されるものは何なのかは、それほど頭を悩ませなくとも するする解けていくんです。
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私的には推理の一番の山場(というか難所)は、「殺した←→殺したも同然」のところでしたわ。閃いたときは「ユリイカ!」と叫びたい心境で(笑) あの峠を越えた後はほとんどラクショーでした。
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パイの創作『虎の話』では、ビシュヌの姿の島の、足のあたりにボートが接岸して、パイは島を形作る木の根や草(苔?)を食べました。
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そして潮風でベトベトの体を真水で洗い清めて、文字通り生き返ったような表情。再生のシーン。
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で、
ミーアキャットの大群が指し示す方向→慣習。
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いわゆる「ふつう」ってヤツです。
「ふつーそういうことしないよね」「みんな違うって言ってるよ」っていう同調圧力
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保険屋さんも「ミーアキャットの大群が住む肉食の島なんて誰も見たことがない。ゆえに、信じない」「誰もが信じる話が真実だ」って、先例があるかどうか、多数派の支持が取り付けられるかどうかを重視してましたけど。
それは真実を見極める決め手になるのか?
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キャプテン・クックがオーストラリアを探検するまでは、先住民族以外は誰もコアラもカンガルーも知らなかったし、東方見聞録とか、地動説とか、地球は丸いから一周できるはずとか、多数派に否定された真実は枚挙に暇がない。
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大勢の人が支持する事柄・考え方 には、それなりの説得力があるので、決して無下に扱ってよいものでは無いのだが、それでも、
「ふつう」というのは多数派の動向にすぎないので、「正当・正常・正義」の根拠にはなり得ない。
多数派が正常なら、この世はすでに改善の余地もないほどの理想郷になっているはずで、世の中がこんなにも乱れて荒れているのは、大勢の人が「正常」だと思いこんでいる中に、ちょっとずつ、誤謬や不条理、悪意や狂気が混ざり込んでいるからだ。
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つまり、
集合Aが「ふつう(=多数派の動向)」
集合Bが「正常(論理的整合性、歴史的妥当性)」
概念として別物だということです。
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A∩Bが「倫理」「良識」「人道」と呼ばれる領域。
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Aー(A∩B)が、衆愚、数の暴力、多数派の誤謬。
Bー(A∩B)が、少数派に理があるケース。今回のパイの選択もココ。
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 A=(A∩B)だったら悩まなくてすむのにねぇ
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パイの創作の中では、日暮れ、リチャパはミーアキャットとは逆方向に、木の上ではなくボートを目指して走ったんです。「ふつー」とは異なるチョイス。
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そしてパイも、夜毎 木の上に避難する生活ではなく、島を後にする道を選んだ。
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で、ミーアキャットは同調圧力に支配される“俗衆”の象徴。
一匹一匹クローズアップされると、あくびしてたり仲良し同士鼻チュウしてたりカワイイのに、大勢寄り集まって一斉に同じ方向に同じ動きをするとなんであんなに気色悪いんかな。金子光晴の「おっとせい」を思い出してしまいます。

アン・リーの方が大衆を見る目が優しいけど。
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多数派の動向(慣習)が絶対正義だと思いこんでいる人々にとっては、
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慣習を破る=タブーを犯す=恐ろしい罪=堕落 
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となるのでしょうが、
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パイは、慣習と倫理は別物と見極めた上で、サントッシュの意を汲んで、彼自身が「正しい」と判断した行為を選択した。
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多数派の動向に背く行為ではあっても、パイ(虎の息子)にとっては、
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「タブーを乗り越えた」=「新しい世界が開けた」
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となるわけで、なんら罪悪感にかられる必要はない。
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ちょっと時をさかのぼって、
少年時代のパイが山の教会でキリストに出会う場面。
夜空から晴天の茶畑の風景に切り替わる場面で、遠景の山々のシルエットが「横たわるビシュヌ神」、というビジュアル・トリックになっています。
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こんなところにビシュヌ様
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ヒンズー教一色だったパイが、別の神様、別の世界観に出会うシーンにビシュヌ神が登場している。
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この映画の中では、ビシュヌ神は「タブーを乗り越える」=「新しい世界観・価値観の獲得」を意味しているんです
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(すべてはビシュヌの夢だからなんでもアリ、とか、出鱈目推奨してるのはドコのダレ〜〜〜?)
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で、
昼は再生を司る生命の泉が、夜は生き物を消化する→死へ誘う黄泉(よみ)。
果実の可食部(果肉)があるべきところに咀嚼のための歯がある 等々。
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これらのモチーフをパイが創作に盛り込んだのは、
「食うことと食われることは表裏一体、生と死は隣り合わせ」と、漂流中にサントッシュと交わした話のフィードバック、再確認だろうと思います。
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パイが、単なる無人島や珊瑚礁ではなく、植物の根が絡まってできた浮島を創作したのは、池が海に直結している構造が必要だったからでしょう。
島(植物)が食った魚は、もしかしたら身投げしたサントッシュを食ったかもしれない海の魚達。
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死体が埋まっているのは、何も桜の木の下だけとは限らない。動物が土に帰り、死体を食って緑が生い茂る。動物を食った植物を食べたら、菜食主義者も動物を食ったことにならないか?
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パイがタブーを乗り越えられるように、サントッシュが前もって話して聞かせたことを脳裏に再現しながら、救命ボートの上で、父が残してくれた“食糧”を食べて命をつないだんです。
もちろん実際には“島”は無い。パイの創作の中の架空の島であることは言うまでもありません。
メキシコに漂着する以前の洋上。ボートの上でパイは一人きり。どれほどの孤独、どれほどの心痛だったことか。
それでもパイが心強く生き延びられたのは、サントッシュの思いやりゆえだと思います。
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父を糧(かて)とし、父の強さがパイに宿った。
(原初のカニバリズムは、残虐行為や猟奇趣味ではなく、勇者に敬意を表し、その力を我が身に取り込む行為ですから)
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パイは父と一体になり、父とともに生きる。
その象徴表現として、『虎の話』では島から退去する際にリチャパを呼び戻す。
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アーナンディが別れ際に巻いてくれた赤い紐→色が抜けて白い紐に→「色あせた過去の絆」→アーナンディへの想いと表裏一体の父に対するわだかまり も、溶けて消え失せた。
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命を惜しまぬ父の愛を前にしては、もうわだかまっている場合じゃないし。
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ついでに言うと、サントッシュの自己犠牲が、パイと気心が通じあってからでよかったな。嫌いな相手に恩着せがましいまねをされることほど不快なものはないから。
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こころ通わせた相棒の自己犠牲は、命取りになりかねない深い傷だったが、相棒が自分を思ってくれたその気持ちを信じることができたから、傷は深いがきちんとふさがって癒える。
ジクジクと化膿したりはしていない。
大っ嫌いな相手、とうてい好きになれない相手から、こんなとてつもない献身を受けたら気持ちのもって行き場がない。自分の為にここまでしてくれた相手を好きになれなかったら、自分が心ない悪者に思えてしまうし。
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予告編の問い「なぜ少年は生き延びることができたのか?」の答えは、
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父の強い愛情+父子が心を通わせることができたから 
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です。
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ここまで読みとれれば、この映画は父と子の壮大なロードムービーだとわかります。
そして、“父と子”の視点に特化してもう一度映画を初めから見直すと、実はパイは映画の中で、一度も父に対して微笑みかけていないんです。
幼少のころから、小学生時代、そして漂流直前の高校生時代まで、パイが父に笑顔を向けているシーンはただの一度も無い。
(アーナンディのことを想ってニヤけていた余波が父に向けられた場面はあるけど、余波ですからねぇ、あくまで)
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それを踏まえた上での あのラストシーンです。
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続く
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