ライフ・オブ・パイ専用ザク格納庫

映画ライフオブパイの超長編ネタバレ/その他映画のレビュー/あと気がむいたときに羽生くんを応援

ライフ・オブ・パイ

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●オープニング・テンプレ●●●●●●●●●●●●●●●●●●
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このブログは映画『ライフ・オブ・パイ』の、激ネタバレ レビューです。
映画をまだ観ていない方はご遠慮ください。
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すでに作品を鑑賞済みの方は、
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↓スタート
2013年10月30日→http://d.hatena.ne.jp/chap-chap3/20131030
2013年10月31日→http://d.hatena.ne.jp/chap-chap3/20131031
2013年11月01日→http://d.hatena.ne.jp/chap-chap3/20131101
2014年01月25日→http://d.hatena.ne.jp/chap-chap3/20140125

…以下、カレンダーか記事の一覧から
2014年4月〜 の順にお進みください。.
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【サントッシュ】
原作に関して言えば「サントッシュが嵐の晩に熟睡しているはずがない」なんて断言はできません。
原作のサントッシュは、サントッシュと個人名で呼ぶ必要が無いほど、「パイの父さん」でしかなくて、アウトラインがぼんやりした描写で、パイの前に立ちはだかる壁のような存在ではないんです。
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家族4人で漂流したと推察できるのは映画に関してのみであって、原作からは「父と漂流したはず」とか、「父をコックになぞらえた」と推論する根拠は見つけ出せない。両親が身分違いの結婚をした熱愛夫婦というのも映画だけの設定。肉食でもないし、無神論者でもないし、脚のハンデを抱えてもいません。
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アン・リー監督がパイの父親に付け加えた設定と家族描写で作品そのものが一変する。
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映画のオリジナルキャラクターとしてのサントッシュ・パテルを描くにあたって、脚が不自由 という設定を巧みにストーリーに盛り込んであることは既に述べましたが、絶妙な編集で、よく見ればハッキリ明らかに描写されているけれど、よくよく観なければ見落としてしまう、チラリズムの極致なんですわ。
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恥ずかしながら、サントッシュの歩き方に気付いたのは私は映画5回目見に行ったときようやくです。そのときでさえ、冒頭のギプスをつけたサントッシュは見逃していて、「サントッシュが脚を引きずって歩くシーンは2回」とメモ書きしてたくらいだ。
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言い訳すれば、始まってすぐのあのシーン、ほとんどの人は気付かないと思いますのよ。ナレーションではパイの誕生と入れ替わるようにトカゲが死んだ、と語られているし、トカゲ目線のローアングルでバチャバチャこっちにやってくるし(ハ虫類苦手な人なら目を閉じちゃうよね)、目端の利く人でも、右奥、雨に煙る火喰い鳥には気付いても、ギプスをはめた男が父だとはなかなか気付かないと思うの。
サントッシュがポリオで苦しんだというナレーションはもっと後に語られるし。1回目からあれがサントッシュだと気付いていた人がいたなら尊敬しますよホント。
私は、あの人は早産に駆けつけたお医者さんかな、と思い込んでいました。モノトーンの服装が医者っぽい気がしたし、ギプス=医療器具、で漠然と“医”のイメージがしたので。
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場面とナレーションを細かく分断して、バラバラに提示することで、観客がサントッシュの脚のハンデに気づきにくいようにしている。
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パイが虎に餌をやろうとして叱責されるシーンもカメラワークが実にしたたかです。
パイが断固として言うこと聞かないので、ラヴィがダッシュで父を呼びに行きますけど(GJ!)、サントッシュは走れません。いよいよの時に、パイの背後、アウトフォーカスで走ってくる人影が映っていますが、服の色からしてあれはラヴィなんです。
けれど、次の瞬間サントッシュがすごい剣幕で登場するので、走ってきたのはサントッシュであるかのように錯覚してしまう。
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健常者のようには走れない、右脚が利かないサントッシュが、どんな様子で現場に急行したか、歩く姿から推察してみてください。
相当足腰に負担がかかったはずです。必死だったと思います。
そう思って観ると、「虎にだって心はあるよ」とかヌケヌケとぬかしやがってこのクソガキャーと思うんですよ(笑)
ととと父さんがどんだけ心配したと思ってんだコラ!!
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この場面、サントッシュを演じているアディル・フセイン氏は、役にぴったり張り付いた、過不足無い、実にいい演技をしています。
パイの無事を確認して、そのあと壁に寄りかかって息を整える。はっきり顔に出さないけれど、無理をして急いできた痛みをこらえていると思います。
妻子の前でも弱みを見せない性格なのだから、一見の観客がすぐに気付いてしまうようではだめなんです。
何度も見直して、あれ?サントッシュって脚が不自由なんじゃないっけ? もしかしてかなり体がしんどいんじゃないかな? という目線でみて、初めて「ああ、やっぱり…」とわかる。そのくらい微妙な押さえた演技。
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こういう役者魂にわたくしは惚れ惚れしてしまうんですの。賞賛されなくても気付いてさえもらえなくても、自分の役目はきっちり果たす、という心意気が素敵。
世界中で大ヒットした『ライフ・オブ・パイ』ですけど、走れないサントッシュが必死に現場に到着するまでの心労と体の痛みに気付かない観客も大勢いるのかも、と思うと、声を大にしてアピールしたくなるのでございます。
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それと、
サントッシュにとって、手足の一部が欠損する、というのは他人事じゃないんです。
彼の右足は切断こそされていませんが、ずっと片足が利かない人生に耐えてきた。
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漂流初期に、長男を助けようと父は脚切断を敢行します。切られるラヴィは無論のこと、見守るしかないパイやジータだって耐えがたい苦痛だったことでしょう。
ただ、父サントッシュの味わった苦痛はそれ以上だったはずなんです。切断の瞬間だけではなく、その先の苦しみを思えば。
切断することでラヴィが一命を取り留めて、漂流から救助されたとしても、その後の人生、ラヴィは片足で生きて行かなければならない。
サントッシュだけは、片足で歩む人生を身を持って知っていて、それを百も承知で息子の脚を切り落とすんです。
一家全員地獄の苦しみだったに違いないけれど、このときも、一番つらかったのは切られる当人ではなくサントッシュの方だったと思うんです。
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次男を叱責したときも、長男の脚を切断したときも、父の方が息子達よりずっとつらかった。インドを去るときも、父の方がより多くを失った。
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その気付きが【神の話】に至る入り口の一つだと思います。

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つづく
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