ライフ・オブ・パイ専用ザク格納庫

映画ライフオブパイの超長編ネタバレ/その他映画のレビュー/あと気がむいたときに羽生くんを応援

ライフ・オブ・パイ

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●オープニング・テンプレ●●●●●●●●●●●●●●●●●●
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このブログは映画『ライフ・オブ・パイ』の、激ネタバレ レビューです。
映画をまだ観ていない方はご遠慮ください。
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すでに作品を鑑賞済みの方は、
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↓スタート
2013年10月30日→http://d.hatena.ne.jp/chap-chap3/20131030
2013年10月31日→http://d.hatena.ne.jp/chap-chap3/20131031
2013年11月01日→http://d.hatena.ne.jp/chap-chap3/20131101
2014年01月25日→http://d.hatena.ne.jp/chap-chap3/20140125

…以下、カレンダーか記事の一覧から
2014年4月〜 の順にお進みください。.
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【どーでもいいバナナ】
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ほんで、
『虎の話』『コックの話』のもう一つの共通項。バナナ。
蜜柑汁/母さん が、バナナに乗って漂って、後からボートに合流したことになっている。
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保険会社の調査員は、『虎の話』を否定する根拠として「バナナは浮かない」と指摘。
で、レビューサイトや個人ブログで、「自分も実験してみた」「バナナは浮いた」という記述が花盛りなんですが、正直、バナナが浮くかどうかなんて どぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉだっていいんです!
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これは、カナダ人ライターがあたかも原作者ヤン・マーテルであるかのように思いこませるのと同様の、観客を惑わせるための誘導です。
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推理小説の記述上のトリックとして、重要な手がかりに読者が気づかないように、さりげなく描写したり、とるに足りないことのように印象づけるテクニックがあります。メインキャラに「そんなことなら簡単に説明がつくよ…」と発言させたりして。
(ABC殺人事件のアレを是非ここで引用したいんですが、さすがにネタバレは人道に反するので断念。アレですよアレ。既読の人ならわかるよね? ア!レ!)
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逆に、重要な手がかりだと思わせておいて、読者の推理をあらぬ方向に誘導するテクも。
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例えば(今、即席で作ったのでヘタクソですが)
大富豪が館の書斎で殺害され、凶器は短剣。なのに、家族や滞在客や使用人達が、口をそろえて「死亡推定時刻に銃声を聞いた」と証言する。銃声の謎を解くのがカギだ…と読者を幻惑しておいて、小説の後半で、通りすがりの車のバックファイヤーで全くの偶然だった、とか。
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バナナが浮くかどうか? というのもそれと同じ。
謎解きの決め手どころか、まったくどうでもいい。無視して差し支えないことなんです。
仮に、バナナという果物が圧倒的な浮力を持っているというのが周知の事実だったとしても、あるいはプラスチック製のバナナの模型とか、はたまた巨大な発泡スチロールの固まりとか、浮くのが当然の物体であろうとも、オランウータン(or母)が、何に乗っていたかはこの際どーーーーでもいいんです。
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問題は、あんな大嵐で船からてんでんばらばらに海に投げ出された漂流者同士が、数時間後にバッタリ再会する可能性なんてあるのか? ということなんです。
理論上、可能性は常に0より大きいとは言え、この場合は実質0だと断言してもいいくらいあり得ない話です。
現実の海難事故で、上空からヘリでレーダーとか使って捜索したって生存者の発見は容易ではない。海は広いな大きいななんですもの。
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沈没直後なら近距離で互いに視認しあって、ボートに泳ぎ着く、救助してボートに引っ張りあげる、といったことは可能かもしれませんが、パイが船室を出るとき、時計の針は1時17分ぐらいなので、沈没したのは1時半頃。
夜が明けて、あたりが明るくなるまでに4〜5時間は経過しています。
潮の流れというものがあるので、大まかに言えば同一方向(東)に流されていくとしても、時間が経てば経つほど個々拡散して、漂流者同士の距離は離れていくはずなんです。
アン・リー監督が沈没時刻を原作より3時間早めたのは、“有り得ない再会”を強調するためだったんですよ奥さん
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 ヒント集(本ブログ2013/10/31)参照→http://d.hatena.ne.jp/chap-chap3/edit?date=2013/10/31
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画面では、蜜柑とバナナは ぐんぐん速力を上げてボートに追いつくんですけど、これもライトアップ沈没船と同様、科学的に有り得ないシーンです。
ボートというのは、水の抵抗を受けにくい、推進力が得られやすい形に設計されているんです。小川に笹舟とピンポン玉を浮かべて ヨーイ ドン!で競争したら十中八九 笹舟のほうが速く進むはずです。
蜜柑汁はパドリングとかしてないし、パイもボートの速力や進行方向を調整するようなことをしてないですよね。
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エンタテイメントとしての映画の中では、奇跡のような偶然が頻繁に起こります。冒険映画では主人公は必ず危機一髪助かることになってるし、恋愛映画では喧嘩別れして十年以上音信不通の男女が異郷の雑踏でバッタリ再会したりする。
そういう、ストーリーを盛り上げるための演出をいちいち「ありえねーw」なんて文句付ける奴は最初っから映画館に来んなって言いたくなりますわ。現実そのまんまをコピーしたものがリアルな表現ってわけじゃないんですからね。
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ただし、それは娯楽映画を楽しむ場合の話。
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映画やマンガなどの物語を鑑賞するのが好きな人は、よく言えば寛容、悪く言えば非現実的な描写に鈍感になってしまう傾向があるようです。
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私も、予告編を観て、トラと漂流して友情が芽生える話かなと見当つけて劇場に足を運びましたので、波のかなたからオランウータンが接近してきた時はホッとしました。漂流仲間が瀕死のシマウマと危険なハイエナだけじゃあんまりだもの。森の賢者オランなら、きっとパイの味方になってくれる。よかったよかった。と。有り得ない再会になんの疑問も持ちませんでした。
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でもね、
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保険屋さんにとってはパイは映画の主人公ではないんです。現実の海難事故の唯一の生存者。船舶会社に払う保険金額を左右する、事故原因について聴取しているんです。
虚偽の供述はないか、曖昧な不自然な説明はないか。
そういう視点で話を精査すれば、真っ先に疑問に思うべきは、沈没後、4〜5時間も経過したあとで漂流者同士が大海原で再会したという部分であって、「そんな話は聞いたためしが無い」というのは、こういうときにこそ言うべきセリフですよ。
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初めは気がつかなかったけれど、謎を解いた今では、DVD見直して「バナナは浮かない」の場面にさしかかるたび、「つっこみどころ そこ?w」とちゃちゃを入れている私です。
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見えざる神の手(作品世界の造物主であるアン・リーとデビッド・マギー)が「バナナは浮かない」と言わせたんです。
(バナナの箇所は原作と共通ですから、正確には見えざる神はヤン・マーテル氏ということになりますが)
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実験してバナナが浮いたからって、『トラの話』が真実だという根拠にはなりません。
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夜が明けてからボートに乗り込んできた人物&動物なんかいないんです。
ジータは最初からボートに乗っていました。
父がボートに乗っていたことは隠し通さなくてはならないので、勝手にボートを降ろそうとしたのはコック、ということにして、シマウマのダイブの衝撃で海に落ちてそれっきり、と話を整えたんです。
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つづく
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