ライフ・オブ・パイ専用ザク格納庫

映画ライフオブパイの超長編ネタバレ/その他映画のレビュー/あと気がむいたときに羽生くんを応援

ライフ・オブ・パイ

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このブログは映画『ライフ・オブ・パイ』の、激ネタバレ レビューです。
映画をまだ観ていない方はご遠慮ください。
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すでに作品を鑑賞済みの方は、
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↓スタート
2013年10月30日→http://d.hatena.ne.jp/chap-chap3/20131030
2013年10月31日→http://d.hatena.ne.jp/chap-chap3/20131031
2013年11月01日→http://d.hatena.ne.jp/chap-chap3/20131101
2014年01月25日→http://d.hatena.ne.jp/chap-chap3/20140125

…以下、カレンダーか記事の一覧から
2014年4月〜 の順にお進みください。.
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天地創造
このように、安息日があるメリットを現実的に考えていけば、ホントは信仰とか神秘とかの領域ではなくて、社会学的な先見性から導き出されたルールだとわかります。
労働基準法と同義の理念の社会規範であって、「神様が7日目に休んだから、私たちも休んで神様に祈りを捧げるのよ」という天地創造の神話は、幼い子供に言い聞かせるための後付けのフィクションです。
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聖書という出版物の、1ページ目の1行目から順々に書かれたわけではない。
何千年も前から口頭で伝承されてきたものが、記述のハードウェア(パピルスとか粘土板とか羊皮紙とか)を獲得した時点で、書き文字に起こされた。
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天地創造の結果、安息日というキマリができたのではなくて、逆です。はじめに安息日ありき。
安息日という、因果関係が迂遠な掟=百年後千年後の社会に良い結果をもたらす掟=なぜその掟が大事かを子供にわからせるのが難しい、でもとても大切な掟 
それをどうやって幼い頃から刷り込むかが課題であって、そのために作り出されたフィクションです。
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口伝えの歴史や戒めは、ダビデ王、ソロモン王の、ユダヤ王国の最盛期に編纂開始された というのが通説のようです。やっぱ、国政・経済が安定してからでないと、こういう文化事業には着手できない。
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だからエピソードの順番が入れ替わっていたり、長い年月で尾ひれがついたり、誇張されたり、指導的人物の出自が神懸かりに粉飾されたり(いわゆる 盛った というやつね)、etc.
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一個人が創作したわけじゃなくて、語り継がれていくうちに、修正や追加もあっただろうし、だから額面通りに受け取れない部分も多い。
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このへんが、映画『ライフ・オブ・パイ』との共通点でもあります。
『虎/コック』の2つのフィクションは、いずれもパイが生還してから創作した話で、漂流をリアルタイムにつづったものではない。時間やエピソードの逆転や心理的矛盾が多々あることは既に述べました。変なシーンこそが謎を解く糸口であると。
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それと、律法の神話や喩え話での教訓は、あくまで幼児に(あるいは幼児同然の人々に)、言い聞かせるためのものなので、わくわくするような魅力に満ちている反面、少し知恵がついた人間には、容易に辻褄の合わない点を指摘される。この点も映画『ライフ・オブ・パイ』と同じ。
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神様が7日目に休んだから私たちも…と言われたって、「え〜? だって私たち神様じゃないし〜」って、子供の頃の私なら口答えしそうだ。
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神が天地創造で最終的に人間をつくる箇所と、エデンの園のアダムとイブの誕生の箇所も合致してないし、だいたいホントに神様が全知全能だったら、6連勤ぐらいでヘバって7日目休んだりしませんて。
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アラ探ししようとすればナンボでも付け入る隙はある。
そういう、変なシーンが何のためにあるのか? を考えてみようとしない人間にとっては。
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いずれは喩え話だと気づかなければならない。その前提で語られている“神”です。(と思うよ。無神論者の私としては)

で、ユダヤの神ヤハウェというのは、他の原始宗教の神とは一線を画した異色の存在だ。
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原始信仰においては“強きもの”が“神”です。だから、太陽や大地も“神”だし、人間を守り育む“良き力”だけでなく、人間を簡単に殺せる“大きくて重いもの”大木、大岩、“自然の驚異”嵐や洪水や落雷も“神”だし、“怖ろしいもの”猛獣なども“神”になる。
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善悪の判断以前に、かないっこない相手にはとりあえず頭下げとけ という、長いものには巻かれろ的な切り分けで、人喰いの生き物も神として崇める。ナイルワニとかヒグマとかジャガーとか狼とかな。
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それに対して、ユダヤが掲げる唯一にして絶対正義の神ヤハウェというのは、まず、“正義”がある。強いものや怖ろしいものでも、良いものでなければ神とは見なさない。始めに倫理感ありきの神なのです。
こういう宗教観(倫理の体系)は、歴史的文化的に社会が洗練され、人間の側の主体的判断がないと成立しない。
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造られた神話も、ユダヤ天地創造は、原始宗教では有り得ないほど論理的。
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歴史家のH・G・ウェルズの『世界史概観』では、原始思想を理解するには、
>ひとは、想像力に富む児童であることを必要とする。
と記述されているけれど、ユダヤ天地創造は、未開の頭脳が作ったにしては、あまりにも整いすぎているんです。
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21世紀の現代でも、「人間の祖先はアダムとイブ」「進化論を子供たちに教えるな」などと主張する教条主義キリスト教徒の一派がいるので、そして、天地創造神話は進化論と完全には一致しないので、創世記は非論理的と安直に決めつける“科学的な”人々もいるが、
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あれは、
外的宇宙の成立を自然科学に忠実に説明するものではなくて、
ひとが世界を認識する→内的世界の形成 を導くためのフィクションです。
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学習の基礎として、まず、
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■一、「物事は大別してから細部に進む」
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■二、「細分化した多項目を一定の序列に従い体系化する」
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■三、「序列の基準を増やす。多方面から自在に検索可能な体系に整えてゆく」
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これが必須。これができているかいないかで学習の成果が天と地ほども変わってくる。
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仮に、一卵性双生児のような、同スペックの子供が二人いたとして(どちらも頭の回転が速く、記憶力もよく、知的好奇心旺盛で、向上心があって、素直で悪気がない)、
片方には前述の一〜三を前準備として言い聞かせておき、もう一人には準備なしに授業をスタートした場合(こんな非人道的な実験はいけないんですよホントは)、
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「まずは大別してから細部へ」をという基本ルールを教わっていない子は、思いついたことを何でも質問する。
なまじ頭の良い子だと、基本の大別を教わっている段階で、もう、ボーダーライン上の微妙なグレーゾーンや滅多にないレアケースについて興味がわいて、次々に疑問が浮かんでしまう。
不出来な教師だと、授業を妨害するな生意気だ黙って聞いてろと怒り出すかもしれない。
教師が教えてくれなかったことを、書籍やネットで自分でどんどん調べていって知識を蓄積できたとしても、序列に沿って体系化できないと、雑多な豆知識を無秩序に数だけ蓄えた状態で、知性にはつながっていかない。
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これは、ガランとした倉庫にドサドサと数万冊の書籍をただ山済みに搬入して放置したのと同じこと。
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あらかじめ書架を準備し、一定の序列で書籍を整理分類して並べた場合と比べて、どちらが知識の活用に便利かは言うまでもない。
その上で、序列の基準を増やす。
(この場合の“序列”は優劣ではなく、あくまで検索のためのソートってことです。ア行の作家とサ行の作家の間に優劣はない。)つまり、検索システムの充実。
書籍のジャンル分類や、作家名、書籍のタイトル、出版社や出版年、多方面から検索絞り込みを可能にする。
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で、
ユダヤ教の創世記・天地創造の神話には、前述の 一〜三 が全部入っているんです。
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幼い子供は、親や祖父母や長老(宗教的指導者)、その他、思いやりのある信頼できる大人達から、世界が創造されていくプラスイメージの話を聞かされて、その中で、
大別→細分化
序列・整理分類
多義・多項目・多角的な認識の確立
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を、
学ぶ という自覚も無しに身につけていくことになるんです。
一を聞いて十を知る というタイプの賢い人は、これをまったく自明のこととして会得している。
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ユダヤ天地創造神話は、安息日を納得させるための方便 というだけでなく、知育の基礎導入プログラムとして秀逸なんです。一石二鳥どころの話ではない。
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大昔に大変な知恵者がおったんですわ。
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親がユダヤ教に改宗すれば賢い子が産まれるっつーわけではないし、ミッション系の幼稚園に入れれば頭良く育つわけでもないのだが、こんな一石で三鳥も四鳥も落とすフィクションをオリジナルで作ろうと思ったら至難の業ですから、乗っかった方が得だと思う。信仰云々は別としても。
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ほんで、世界の創造を6日(6工程)で説明してあるのですが、
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初日:光と闇をわける。光を昼、闇を夜と名付ける大別。
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2日目:「水の中に蒼穹があって、水と水の間を分けるものとなるように」。
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海と空を分ける前に、まず上の水と下の水を分けて(気象についての留意がなければ、天上の水 という発想はまず出てこない。この点もスゴイ)、その後で
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3日目:「天の下の水は一箇所に集まり、乾いた所があらわれるように」。
乾いたところを地と呼び、水の集まったところを海と呼んだ。
ほんで、
「地には草木を」生じさせた。
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前半3日間はゆっくり進みます。生物の教科書に載っている、受精後の胚の分裂みたいに、まず二分割、さらに二分割で四分割、その後、加速度的に、累乗倍で細分化していく。
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ボッシュのトリプティック

閉じた状態:天地創造(3日目)
開くと三面:左から「エデンの園」「快楽の園」「地獄」
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で、
驚異の4日目は敢えて今はすっ飛ばして、
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5日目:水の生き物、空を飛ぶ鳥を造る。(恐竜の子孫が鳥だって知ってたみたいな順番だわ)
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6日目:家畜・這うもの・地の獣 を造って、最終的に人間を造って、既出のすべての生き物を支配させる。
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となるわけで、進化論に完全に合致していなくとも、進化の系統樹をざっくり「三行で」と言われたらこうなるだろうな、というくらいには まぁまぁ合致している。
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まじない程度ではあっても、自然科学上の生命の進化(物事は順序立てて進んでいく)という事象にも触れている。
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問題は4日目

実は、4日目にして初めて、太陽や月や星々が造られているんです。
ユダヤの神様ったら、3日目に大地と植物を造ったその後に、太陽を造ってるんですよ。ありえないでしょ。
他の原始の神話だと、光と闇を分けた時点で、光=太陽で、闇を照らす小さな光が月や星 となっているケースがほとんどです。太陽が兄で月は妹姫とか、星々は月姫に仕える侍女達とかの擬人化設定がすぐ思い浮かぶけど、ユダヤ天地創造では、1日目に光と闇を分けて「昼」「夜」と名付けても、太陽や月星は同時には造られていないことになっているんです。植物のあとに太陽って、それまで光合成どうしてたの?って、理科が得意な子供なら絶対納得しないでしょうね。
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しかし、聖書の記述をきちんと読むと、
「天の蒼穹に輝くものがあって、昼と夜とを分けるように。それらはしるしとなって、季節と日と年を刻むように。」と神がおっしゃっている。
つまり、初歩の天文学・暦の成立ってことです。
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農耕の開始に伴って暦が作られるようになったことは歴史の教科書にも書いてあるはずですが、農耕以前の牧畜の時代でも、「草(牧草)」が確保しなければならない資源となった時点で、(牧草地の確保が必須になった時点で)、時期を計り、方角を読む必要に迫られ、天を仰ぎ、そこに目印を見いだした。
月の満ち欠けで時期を知り、もうすぐ乾期が来るから水辺の草地へ移動しようとか、雨期の前に羊たちを高い場所へ連れていかなければ、と、太陽の影や星で方角を読み、目指す所まで旅をする。
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3日目の大地や植物の登場の後に、4日目:太陽月星が造られたという記述は、人類の文明の発展とともに、天体が観測され、生活に欠かせない便利ツールとして登場した、という認識があってこそ成立する順番です。
(もちろん、人間は6日目にやっと登場するんだけど、話を創った作者は歴史を知っていたってこと)
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かように、幼児の空想や、原始的な迷信とは次元が違う。
自然科学にしか目がいかない人は、6日で世界を創る喩え話をバカにするかもしれないけど、社会学・歴史的整合性という視点で読み直してみることをお勧めする次第です。
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神学者のこじつけは、ただただめんどくさいんですけどねー。今回参照した聖書は、ほかの所はみっちり注釈つけてあるんだけど、4日目の太陽月星の創造の所は注釈1コも無いの。完全スルー。
作者が人間だと認めるわけにいかないからでしょうね。
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【神の話 Part3】につづく
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だって8月中に【神の話 Part2】は終わらせるって宣言しちゃったし。約束は守ったよ?
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だから残りは【神の話 Part3】ってことで。
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ななななんでそんな目で見るんだキミタチッ
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