ライフ・オブ・パイ専用ザク格納庫

映画ライフオブパイの超長編ネタバレ/その他映画のレビュー/あと気がむいたときに羽生くんを応援

ライフ・オブ・パイ

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●オープニング・テンプレ●●●●●●●●●●●●●●●●●●
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このブログは映画『ライフ・オブ・パイ』の、激ネタバレ レビューです。
映画をまだ観ていない方はご遠慮ください。
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すでに作品を鑑賞済みの方は、
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↓スタート
2013年10月30日→http://d.hatena.ne.jp/chap-chap3/20131030
2013年10月31日→http://d.hatena.ne.jp/chap-chap3/20131031
2013年11月01日→http://d.hatena.ne.jp/chap-chap3/20131101
2014年01月25日→http://d.hatena.ne.jp/chap-chap3/20140125

…以下、カレンダーか記事の一覧から
2014年4月〜 の順にお進みください。.
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【神の話 Part2】
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【神の話 Part2】は聖書のハナシです。
ハイ、どん引き〜
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っても、訪問勧誘みたいな「聖書のお話を聞いていただきたくて…」的な展開はいたしません。
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スクリーン上の『虎の話』の中で、パイが参考にしたオレンジの表紙のサバイバル手帳、あれが旧約聖書のメタファーなんですよっつーはなし。

↓これよ

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↓これね
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これまでは、パイと父の漂流についてをメインに語ってきましたが、ここでは『虎の話』のビジュアル通り、少年一人と虎一頭の漂流記として語ります。

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【オレンジ手帳】
旧約聖書は、ユダヤ民族が何千年も前から伝承してきた、良く生きるためのアドバイス集のようなもの。
長い年月の果て、何のための掟かよくわからなくなってしまったものもあるし、掟を守らないものは石打ちの刑で殺してしまえ、などと恐ろしげな戒めもあるので、生きる苦しみを増すための縛りのように誤解されがちだが、もともとは後代のために良かれと思って口伝えしたものなのだ。
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ノアの箱船の作り方や、神殿や契約の箱の設計書
(図版を記録する手段がなかったため、言葉で記した寸法書き)旧約聖書にはあるが、オレンジ手帳にもボートの見取り図やサバイバルグッズの使い方の図説がある。
サバイバル手帳を編集した人達にとって、誰がどんな状況でそれを参照するかはわからない。いろいろ念のため、あれもこれも書き込んであって、中にはパイにとっては不要な注意書や役に立たないアドバイスもある。
海水や尿は飲むな、なんて、今更言われんでも知っとるわ、だろうし、一人で漂流してるのに、トランプや合唱をおすすめされても困るっしょ。
パイは賢い子なので、エアトランプとか一人合唱とか不毛なことはせずに、そのかわり、気晴らしが大切、 という要点は理解して、好きな太鼓を叩いたり、サーカスの呼び込みみたいな口上を大声で叫んでテンションあげたりしています。

教条主義者というのは、掟というものを形ばかりなぞるのが正義と思いこんでいるので、「太鼓を叩いてよいとは一言も書いてない」とか「なぜ掟の通りトランプをしないのか」などといって責め立てるわけですが、過酷な状況下で生き残るための善意のアドバイス集なのだから、パイみたいに能動的な参照の仕方でかまわないと思うんです。
そして、手帳の助言を参照しつつ、パイは自分自身の生きるための言葉を書き込む。
これによって、オレンジ手帳は新約聖書のメタファーをも兼ねるわけです。
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新約聖書 マタイ伝5章17-20

17●私が律法と預言者をこぼつために来たなどと思うな。毀つためではなく、完成するために来たのである。
18●すなわち、アーメン、汝らに言う、天地が過ぎ去るまでは、一点一画たりとも律法から過ぎ去ることはない。一切が生じるまでは。
19●もしも誰かがこれらの戒命の最も小さいものの一つでも破ったり、人にそのように教えたりすれば、その者は天の国において最も小さい者と呼ばれるだろう。その戒命を実践し、ないしそのように教える者は、天の国において大きい者と呼ばれるだろう。
20●すなわち、汝らに言う、汝らの義が律法学者やパリサイ派の義よりも大きいのでなければ、汝らは天の国に入ることはできない。

イエス・キリストの談話として、弟子のマタイが書き残したマタイ伝のなかのこのくだり、
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エスユダヤ人で熱心なユダヤ教徒で、祖先が良かれと思って伝承した助言が、人々を苦しめるために用いられている状況を見かねて、本来の助言に再生させようとした、ユダヤ教の改革者です。

安息日は人のために作られたのであって、人が安息日のために作られたのではない
[マルコ2章27]


といった言葉からもわかるように、
エスのやろうとしたことは、掟破りではなくて、掟の良心的な拡大解釈。
ユダヤ教と敵対して、はじめから自分が教祖の新興宗教を打ち立てようとしたわけではない。
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が、旧来の宗教利権にしがみつく勢力や、逆に下克上期待でイエスに荷担しようとする勢力は、イエスの言葉を掟破りと受け止めたため、自分はユダヤ教(掟)を否定するつもりはない、と明言したくだりが、この「マタイ5章17-20」である。

後にキリスト教がヨーロッパを制覇し、ヨーロッパ人がユダヤ人差別に血道をあげるようになったとき、この、イエス本人がユダヤの掟を尊重するくだりは、反ユダヤの自称キリスト教徒には大変都合が悪くて、御用学者がこじつけに苦心したそうだ。
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今回引用した訳文は、
新約聖書 訳と註 第一巻』
著訳者 田川建三
発行 株式会社作品社
ISBN978-4-86182-135-6

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これは意訳の弊害を避けるために、訳文が多少ぎこちなくなろうとも、原文に忠実な訳を心がけている。(本文より訳注の方がボリュームがある、3倍ぐらい)
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毀つ[こぼつ]は、価値を否定する・打ち壊す、捨て去るの意味ですね。他の訳では、「廃止」、「廃棄」等の訳語が当てられてます。
「完成させる」、のかわりに「満たすために」という訳語もあります。
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私が子供のころ読んだ訳は、もうちょっと言葉を補った意訳で、「〜書き加え、完成するために」となっていた、ような気がする。
だからパイが手帳に書き込みする場面でピンときたのでございます。
実際、イエスも弟子達も、旧約聖書ユダヤ聖典)の改変とか部分削除などはせず、プラスアルファーの新約聖書を加えて、キリスト教の2大正典となってますし。
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ただ、そうすっと、書き込みするパイがイエス・キリストのメタファーなのか? という誤解も生じる。
アメリカにも怖い教条主義者のキリスト教徒さん達が一大勢力として存在していらっしゃるので、めったなことは言えませんわな。
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パイの漂流それ自体は、イエスの布教活動とか、処刑とかを模しているところは一つも無いので、アン・リー監督がメタファーとして提示したのは、聖書の記述について であろうと思います。
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それと、パイの信仰の変転。
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【正しい掟】
70年代にベストセラーになった、リチャード・バックの『カモメのジョナサン』に、
>正しい掟というのは、自由へ導いてくれるものだけなのだ
というセリフがある。掟ってイヤなもの、という思い込みを覆してくれた名セリフだ。私にとっては。
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昨年夏、タイミング良く、『…ジョナサン』の完全版がでたな〜と思っていたら、私の遅筆のせいで、すっかりタイミングに遅れてしまった。まだ読んでないんだけれど(これが終わったら読む)、ジョナサンが神格化されて、グダグダになっていく話が追加されてるっぽいですね。
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ほんで、昨今は宗教がらみの滅茶苦茶な事件が頻繁に報道されて、そのたびネットの書き込みとかで「宗教は害にしかならん」との意見を目にする。
最近でなくても、歴史をかじれば、十字軍遠征による異教徒間の殺戮とか、カトリックVSプロテスタントの血で血を洗うような戦争など、宗教はマイナス面のほうが多いように思えるし。
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ただね、悪いばっかのもんだったら、こんなにも長きに渡って人々の間に根を下ろしたりしないわけですよ。
初めは、サバイバル手帳のアドバイスのように、良かれと思って書き残したもの、そして実際に生きていく上で非常に役に立つものだったはずなんです。
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ほんで、ちょっとズレた引用かもしれないけど、これ

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白土三平 著『野外手帳』
>今回はフグの中毒について紹介するわけだが、私は未だかつて店でフグ料理を食べたことはない。主食に米を食べるように、春にはウドを秋にはキノコと、季節に応じて手近にあるものを菜にするように、その中にフグもあるのである。

〜中略(ご自分のフグ中毒体験談)〜
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>フグは命をかけてまでして食べるほどのうまい物でもない。米のめしだって、くさっていれば食中毒を起こすものである。そうかといってめしをやめるわけにもいくまい。
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 〜中略〜
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饅頭でもいたんでいれば中毒を起こすし、公害食品も知らないで食べているのである。散布した農薬に汚染されたシメジを食べて倒れた例もある。
まして有毒とわかっていてたばこを吸い続けている我々である。フグだけにいわれのない憎しみと恐怖心をいだくのは自然を愛する心に反するものである。

白土氏も浜の漁師さんたちも、
>一度や二度中毒を起こしたからといって、フグを毛嫌いしたり食べるのをやめたりはしない。私の場合もショウサイフグの肝にあたって三日ほど寝込んだのだが、未だにフグは好物である。つまり、中毒は自分の手落ちということである。
ということで、
唯物史観漫画の大家のお言葉を 宗教を語る上で引用していいものか気が引けますが、白土先生がおっしゃるように、どんな滋養に富む美味な食物であっても腐れば毒。
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魂の糧である宗教も同じことではないかと思うわけです。腐った掟は害にしかならない。
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ので、腐る前の、有益な助言だったころの掟について、ちょっと書いてみます。
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「宗教? くだらねぇ」と思ったままだと、パイのたどりついた境地を眉唾の迷信だと誤解してしまう。
映画のレビューサイトにも「宗教は勘弁」「自分的にはNG」と宗教アレルギーから来る作品否定がありました。
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私は無神論者なので
唯物論者でも無いが、少なくとも人格神は信じてない)、他人様を特定の宗教に勧誘する気はさらさら無い。
が、ユダヤキリスト教の掟には、全世界全人類に恩恵をもたらしたものも少なくないので、迷信じみたキンキラキンの賛美ではなくて、宗教上の掟が実社会に益をもたらしたケースについて書いておきます。

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このあと、【安息日】【十戒】【天地創造】…と、聖書のエピソードの読み取りが延々と続きます。
ライフ・オブ・パイに全然関係ないじゃないかと嫌がられると思うのですが、関係あるので、最終的にちゃんと映画『ライフ・オブ・パイ』に着地するので、
どうか辛抱してお付き合いください。
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伏してお頼み申す。
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次回 【安息日】に つづく

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