ライフ・オブ・パイ専用ザク格納庫

映画ライフオブパイの超長編ネタバレ/その他映画のレビュー/あと気がむいたときに羽生くんを応援

『愛』 Paul Kleeに  谷川俊太郎 作


いつまでも

そんなにいつまでも

むすばれているのだどこまでも

そんなにどこまでもむすばれているのだ

弱いもののために

愛し合いながらもたちきられているもの

ひとりで生きているもののために

いつまでも

そんなにいつまでも終らない歌が要るのだ

天と地をあらそわせぬために

たちきられたものをもとのつながりに戻すため

ひとりの心をひとびとの心に

塹壕を古い村々に

空を無知な鳥たちに

お伽話を小さな子らに

蜜を勤勉な蜂たちに

世界を名づけられぬものにかえすため

どこまでも

そんなにどこまでもむすばれている

まるで自ら終ろうとしているように

まるで自ら全いものになろうとするように

神の設計図のようにどこまでも

そんなにどこまでも完成しようとしている

すべてをむすぶために

たちきられているものはひとつもないように

すべてがひとつの名のもとに生き続けられるように

樹がきこりと

少女が血と

窓が恋と

歌がもうひとつの歌と

あらそうことのないように

生きるのに不要なもののひとつもないように

そんなに豊かに

そんなにいつまでもひろがってゆくイマージュがある

世界に自らを真似させようと

やさしい目差でさし招くイマージュがある


─詩集『愛について』谷川俊太郎