ライフ・オブ・パイ専用ザク格納庫

映画ライフオブパイの超長編ネタバレ/その他映画のレビュー/あと気がむいたときに羽生くんを応援

ライフ・オブ・パイ

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●オープニング・テンプレ●●●●●●●●●●●●●●●●●●
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このブログは映画『ライフ・オブ・パイ』の、激ネタバレ レビューです。
映画をまだ観ていない方はご遠慮ください。
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すでに作品を鑑賞済みの方は、
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↓スタート
2013年10月30日→http://d.hatena.ne.jp/chap-chap3/20131030
2013年10月31日→http://d.hatena.ne.jp/chap-chap3/20131031
2013年11月01日→http://d.hatena.ne.jp/chap-chap3/20131101
2014年01月25日→http://d.hatena.ne.jp/chap-chap3/20140125

…以下、カレンダーか記事の一覧から
2014年4月〜 の順にお進みください。.
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カインとアベル(後半)】.
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で、恋愛に例えたのは罰当たりだったかしら、奇をてらいすぎだと叱られるかしらとビクビクものでしたが、図書館で資料漁ってたらこういう文献を見つけました。.
『聖書を読み説く 物語の源流をたどって』山形孝夫 著
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ISBN978-4-569-69392-7
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東北大学文学部宗教学・宗教史学科卒業。同大学院 博士課程満期退学。専攻、宗教人類学。
東北大学講師 宮城学院女子大学教授 学長を経て、現在、同大学名誉教授
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こういう経歴の著者なので、トンデモ本ではないと思われ
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>創世記ー「カインのしるし」をめぐる物語の原型が、シュメールの楔形文字の粘土板に記録されている。
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ふたりの若者は、ここでは牧羊神(ドゥムジ)と農耕神(エンキムドゥ)。このふたりの兄弟が、愛と豊穣の美しい女神イナンナの心を射止めるために競いあう。ふたりは、相手を蹴落とすために互いに中傷しあうのだが、結局女神の心を射止めたのは牧羊神であり、農耕神は敗北する。ここまでは、創世記のカインとアベルの物語と同じ筋立てである。だが、結末が全く違う。シュメール神話では、ふたりは和解するのだから。
敗北した農耕神が、恋敵である牧羊神に対し、畑の一部を羊の餌場として提供することを約束する。なんと嬉しい話だろう。牧羊神は、農耕神を包容し、結婚式の祝宴に招待しようと申し出る。招待された農耕神の喜びようは格別だ。彼は、花嫁イナンナのために、農作物の贈り物を約束する。かくて話は、めでたし、めでたしで終わる。成立は紀元前2000年代の半ば。創世記神話の成立より千年ほど早い。
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>いったい創世記のあの悲惨な結末はどこからきたのか。
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中略:全部引用すると長くなりすぎるので。
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山形氏は
>謎を解く手がかりは、カインにつけられた「しるし」にある。.
と続け、
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>イギリスの神話学者S・H・フックは、古代バビロニアに伝わる新年祭の逃亡司祭の物語が背景にあると主張する。
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まんま引用だと長いので まとめると、
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古代バビロニアの慣習では、
生贄を捧げた執行者は、生贄の流す血の汚れが清められるまで一定期間、共同体から隔離されることが義務づけられていて、この「逃亡司祭」の庇護のために、神は司祭に「しるし」をつける
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ここから、
カインのアベル殺しを、復讐ではなく、凶作を回避する宗教行事としてとらえ、カインの「しるし」に、逃亡司祭の記憶の痕跡を見る
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という解釈だそうだ。
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その後の項で山形氏は、太古の農耕文化と遊牧文化の闘争に言及しておられるが、割愛する。興味わいた人は自分で読んで。
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つか、権威の著作に頼らなくても、ちょっと考えればわかることだ。
現代の牧畜農家は牧草を育てるところからスタートする(訂正:その前の土作りからか)
が、黎明の遊牧民は自然に生えてくる牧草を天の恵みとして、羊達が一カ所の牧草を食い尽くしたら移動する。広範囲を移動し、5、6年後に、また自分たちのテリトリー(だと思っていた牧草地)に周回してきたら、そこには農耕民族が住み着いていた。
当然争いは起こるだろう。
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遊牧民が、先祖代々 自分たちのエリアだったと主張しても、定住して開墾した人々にとっては、何年もほったらかしにしておいて今更!と 譲るわけにいかない。
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(大地はよく女神に擬人化されるけど、自分の女だと思いこんでほったらかしにしてたら、いつの間にか ほかの男にとられてた、みたいな修羅場だわねぇ)
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(これってなんか、現代のイスラエルパレスチナの争いとも似てるわねぇ)
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ただし、『カインとアベルの物語』を、農耕VS牧畜の観点のみで読もうとすると本質を見誤ると思う。
古代史や各民族の神話などは、門外漢にとっては手に余るので、詳細に調べた学識豊かな専門家に足を向けては寝られないのだが、でも、苦労して調べあげた人は、自分が調べたことが重要な手がかりであってほしいという願望で見誤ることがあると思う。
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映画のレビューで、原作ちゃんと読んだぞとアピールするのに必死で、原作と映画を混同してズレたレビューを書いてしまう人が多いように。
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カインとアベルの物語』ができあがった当初は、イスラエルの民は遊牧民であるから、「神様が、牧草地を奪った憎き農耕民を追い払って罰して下さった」というのが主題だったかもしれないが、書き文字に編纂されたのは、ダビデ王〜ソロモン王の時代なので、一方的に農耕民を悪者にする話は通用しない。
すでに定住して農業を営んでいる人々が大勢いて、農地からの収益は国家の重要な財源である。
しかもイスラエルのスーパーヒーローのダビデ王の系譜をたどれば、曾祖父はボアズという裕福な農夫である。なおさら農業従事者を悪く書くわけにはいくまい。
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その証拠に
(と言っていいのかどうか)弟殺しのカインの8代目の子孫がノアなのだ。
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おっと、訂正.
特大文字で訂正
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ノアの父親がレメクという名前なのだが、旧約聖書にはレメクは二人いる。カインの5代目の子孫がレメク。
カインが追放されたあと、アダムとイブは三男シェトをもうけ、シェトの7代目の子孫がレメク。

.="font-weight:bold;">現代の聖書では、ノアの父はシェトの系譜のレメク。というのが統一見解になっている。らしい。
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ただ、聖書の注釈でも指摘されているのだが、カイン、シェト、各々の系譜には同名、類似名が多い。
メトセラと言う名は、アチラでは長寿者の代名詞的によく使われるが、(「たとえあなたがメトセラほどの年寄りであろうとも…」とか)

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レメクの父が、
カイン系ではメトシャエル
シェト系ではメトシェラハ

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カイン系
カイン→エノク→イラドメフヤエルメトシェルレメク

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シェト系
シェト→エノシュ→ケナン→マハラルエルイェレド→エノク→メトシェラハレメク

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メフヤエル/マハラルエル

イラド/イェレド
聖書の注釈では、これらの名前も類音、類義で対応しているとのこと。.
で、カイン系のレメクには、そのキャラクターを知らしめる逸話の記載がある。
二人の妻の名前、生まれた4人の子供の名前と役割。
二人の妻に、自分には神の加護があると誇り「カインの復讐が七倍ならレメクには七十七倍」と歌い豪語するくだり等々。
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日本の神話のスサノヲノミコトみたいに、荒っぽいけど憎めないキャラとして、生き生きと描かれている。
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有島武郎 著『カインの末裔』の原点はレメクだろうな。.
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それに対して、罪を犯していない三男シェトの系譜は、みんな名前(と享年)だけで、人物描写は全くないのである。
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だもんで、当初、旧約聖書を猛スピードでななめ読みしたとき、カインの子孫からノアが出たんだから、わしらはみんな「カインの末裔」なんだな、どおりで罪深いわけだ、と勘違いしてしまったのだ。
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山形氏は、前述の著作で
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>最初に破局がくる。破局は、カインの末裔の滅びのドラマでなければならない。それが「ノアの洪水」である。
物語記者は、そうした滅亡のドラマの叙述をとおして、神の救いと選びの意志を浮き彫りににしていく。
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と書いておられる。
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罪人のカインの系譜は、結局 洪水で全滅。
正しい三男シェトの子孫の、正しいノアの子孫から再び人類が増え広がる………という話のほうが、勧善懲悪にはかなっている。
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が、個人的には、カインの子孫のレメクがノアの父で、それを別系譜に書き換えたのではないかしら と考えております。勧善懲悪に合わせるために。
早とちりに固執して言い訳するのもどうかと思うが、早とちりするでしょフツー、と言いたくなるほど、カイン系レメクの方が印象に残る描き方なんだもの。
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ノアは心正しい男だったから洪水から救われた。ノアの祖先のカインも(殺人はNGだったけど)気概のある見所のある奴だった、だからこそカインの末裔から人類が広まった という解釈ではいかんのか?
ノアの一家が箱船で新天地に降り立つストーリーは、欧州の体制で持て余された不満分子が、新大陸を目指す描写と重なるんです。
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時系列が逆だと言われるかもしれないが、歴史は繰り返す。
土地の占有→利権にあぶれた者が不満分子となり追放→新天地で先住者との争い→勝者による安定した社会の構築→不満分子の追放→………
幾度となく繰り返されてきた普遍のスパイラル。
そのなかに、お約束のように、アメリカ・オーストラリアへの移住や、ユダヤVSパレスチナの争いもある というだけの話ではないのか。
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で、
カインのような不満分子は、怒りを発散する方法さえ間違わなければ、普遍のスパイラルを変える、閉じられた循環を破って外に広がっていく力になるのだと解釈します。
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だから、書き文字の創世記の編纂者は、
」はカイン(農耕者)を聖別する「しるし」をつけ、カインの子孫のノア(農耕者)から世界中に人類が再生するストーリーにまとめた。
が、いつの時代かはわからんが、全人類の父祖が殺人者じゃまずいんじゃないの? という配慮が加わり、罪無き三男を急遽登場させ、系譜を書き換えたのではないかと考えます。
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それと、「なぜ、農耕者カインが兄なのか?」
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旧約聖書の世界は徹底的な家父長制度で、長子権は絶対。長男と弟たちの間にはかなりの「越えられない壁」がある。
(なので、優れた人物は逆に「弟」の設定が多い。ヤコブ、ヨセフ、モーゼ、ダビデも。弟なのに長子よりずっと優秀というアピールだろうか。)
歴史に登場した順番で言うと、牧畜が先で、その後に農耕。
ヤハウェ遊牧民の神ならなおのこと、神に愛されたアベルが長子と設定されそうなものだが、
農耕者カインが兄なのは、カインの方が「先に進む奴」だからではないか。
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ダビデ王の時代に、すでに、
人類の発展の可能性が、
農耕>遊牧
という認識で、農耕者のカインに、遊牧よりも先に進む可能性を見て取ったから兄と設定したのではないかと思うのです。
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つづく

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