ライフ・オブ・パイ専用ザク格納庫

映画ライフオブパイの超長編ネタバレ/その他映画のレビュー/あと気がむいたときに羽生くんを応援

ライフ・オブ・パイ

.
●オープニング・テンプレ●●●●●●●●●●●●●●●●●●
.
このブログは映画『ライフ・オブ・パイ』の、激ネタバレ レビューです。
映画をまだ観ていない方はご遠慮ください。
.

すでに作品を鑑賞済みの方は、
.

↓スタート
2013年10月30日→http://d.hatena.ne.jp/chap-chap3/20131030
2013年10月31日→http://d.hatena.ne.jp/chap-chap3/20131031
2013年11月01日→http://d.hatena.ne.jp/chap-chap3/20131101
2014年01月25日→http://d.hatena.ne.jp/chap-chap3/20140125

…以下、カレンダーか記事の一覧から
2014年4月〜 の順にお進みください。.
.
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
.
.
.
カインとアベル その3】
.
.
最初は、「神」を「X」に変えて読んでみたら、アラ? なんか恋愛ものみたいな展開…、という、ちょっとした試みだったのですが、それを裏付けるような資料があったので調子にのりました。すいません。
.
聖書の解釈・翻訳も、一枚岩ではなくて、今回メインに参照した岩波書店 ISBN4-00-026181-9 の訳は
.
>「あなたはなぜ怒り、顔を伏せたのか。そうではないか。もしあなたが正しくふるまっているというのなら、〔顔を〕上げることだ。もし正しくふるまおうとしないのであれば、戸口に罪が待ち伏せよう。彼の想いはあなたに向かい、あなたは彼を納めなければならない。」
.
注釈)あるいは「〔声を〕上げる」
注釈)「彼」はおそらく弟アベルのこと。総じて、牧羊民より優位に立つ農耕民が前者を保護する立場にあった。
.
.
なのに対して、教文館 ISBN 4-7642-2701-0 のは
.
>「何故君は怒るのだ、何故君はそのように顔を伏せるのだ。正しいことをしているのなら、顔をあげればいい。正しいことをしていないのなら、罪が門口で待ち伏せしているぞ。罪は君を渇望している。しかし君が罪の支配者にならねばならないのだ」。
.
.
岩波版で、「アベルのこと」と解釈されている「彼」を、教文館訳では「カイン自身の怒り」と解釈してあります。
.
岩波はあくまで学術的に、古代史を重視して、農耕VS牧畜の対比の中で解釈・翻訳を展開しているが、ワタシ的には教文館の訳の方が、現代にも通じる普遍性が読みとれると思う。つか、古代の、牧畜民と農耕民の争いにしか言及していない話だったら、21世紀の人間がありがたがって読む必要ないでしょ。
.
.
理不尽な仕打ちに出会ったとき、怒りを抑えること、
言い分があるなら主張せよ(顔をあげよ) という教え。
.
「神」を人格だと捉えると、自分で兄弟の間に不和の種を蒔いておいて説教すんな!と言いたくなりますが、人格じゃないから。さけては通れない「世の中の理不尽=理不尽込みの世の中」で、どう生きるかを諭すための喩え話だから。
.
.
旧約聖書(律法)の中の「神」は、そのエピソードごとに意味付けが微妙に異なる。そこを同一の人格神(登場人物)と捉えると、まったく承伏しかねる辻褄が合わない「神」になってしまう。
.
その最たるものがコレではないかと。
 ↓
.
【イサク献供】.
旧約聖書で一番嫌いな話がこれだ。初めて読んだときの嫌悪感が未だに残っている。
.
ユダヤ民族の父祖と崇められるアブラハムが、いかに正しい偉大な男だったかを示す逸話、ということになっているが、
.
ある日、神の声が聞こえてきてアブラハムに告げる。「一人息子のイサクを供義(生け贄)として捧げよ」。信仰厚いアブハラムは息子を連れて山へ。幼い息子を屠ろうとした土壇場で、神がストップをかける。神のためなら我が子をも犠牲にする覚悟があるかどうか試したんで〜す。ドッキリ大成功♪って、冗談じゃねぇやふざけんな。ほんとに全知全能の神なら小芝居でテストなんかしなくたって心の奥までお見通しのはずだろっつの。
.
と、怒り狂った10代のころから幾星霜。
年月とは恐ろしいもので、私も枯れて、ものわかりのいいおばさんになりました。
.
これはさ、我が子可愛さに目が眩んで社会の法[のり]を踏み外してはいけないよ、という戒めを、ものすっっっっっごく誇張した教訓話なんだろなと。
この場合の「神」は社会規範。
.
これも、いつの時代どこの国にも通じる普遍的な教訓。
.
.
アガサ・クリスティ『書斎の死体』
ISBN4-15-070016-8
.
>女性の中には、自分の子供のためを思って犯した罪は、やむを得ぬ人情の発露としてほとんど許されるという妙な考えをもっている人がいますからね。そんなふうに考えている人を、わたくしは村で二、三知っていますわ。“デイジーのためを思ってやったことなんです”などというと、疑わしい行為が正当なものになると考えているらしいんですよ。まったく、いいかげんなもんですわね。
.
真剣にクリスティからの引用多いなw ファンなもんで。
.
クリスティばっか読んでると思われるのもシャクなのでもう一例。
.
芥川龍之介の『邪宗門(未完)』
という作品で、主人公(堀川の若殿様)が「笙の師匠が持っている秘曲の楽譜を見たいが、未だに見せてもらえない」と、父親に何気に不満をもらす。父は「やがては手に入る時が来るだろう」と笑って慰めるが、数日後、笙の師匠は変死を遂げ、師匠の家宝の笙と秘曲の譜が息子の部屋に。若殿は、父の顔を見つめ、「師匠の菩提を弔うために、もう一生笙は吹かない」と告げる。
.
ISBN4-10-102501-0
新潮文庫羅生門・鼻』に収録

.
まあ、今で言うモンペですね。いつの時代にもこういうありがた迷惑な親はいる。我が子のため という言葉に酔って、トラブルを起こして、周囲との軋轢の強さを愛情の強さだと得意がっているような。
.
アブラハムは一介のマイホームパパじゃなくて、大勢の僕[しもべ]を従えた部族の長の立場なので、我が子可愛さに道を踏み外すわけにはいかない。
歴史上、王が跡継ぎの子を甘やかしたせいで、2代目3代目で国がガタガタになった例はいくらでもあるし。
.
アブラハムは、信者としてのテストに合格したのではなくて、為政者としてのテストに合格したのだと思うわけです。だから、神はアブラハムの子々孫々までの繁栄を約束した。
.
三国志でゆうたら「泣いて馬謖を斬る」に相当するかな。馬謖は我が子じゃないけど。
大勢の命を預かるリーダーの立場だと、非情に徹しなきゃならない局面があるよね。
ノブレスオブリージュですわ。

.
.
つづく
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.