ライフ・オブ・パイ専用ザク格納庫

映画ライフオブパイの超長編ネタバレ/その他映画のレビュー/あと気がむいたときに羽生くんを応援

ライフ・オブ・パイ

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●オープニング・テンプレ●●●●●●●●●●●●●●●●●●
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このブログは映画『ライフ・オブ・パイ』の、激ネタバレ レビューです。
映画をまだ観ていない方はご遠慮ください。
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すでに作品を鑑賞済みの方は、
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↓スタート
2013年10月30日→http://d.hatena.ne.jp/chap-chap3/20131030
2013年10月31日→http://d.hatena.ne.jp/chap-chap3/20131031
2013年11月01日→http://d.hatena.ne.jp/chap-chap3/20131101
2014年01月25日→http://d.hatena.ne.jp/chap-chap3/20140125

…以下、カレンダーか記事の一覧から
2014年4月〜 の順にお進みください。.
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【李安のギャラリー】
からのつづき
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【3Dの絵画】
キュビズムから遡上するブレイクの画業】
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ほんで、その後、意味や自意識を消す実験のダダイズム(ムリだってことを自覚するためだけの大々的な実験:悪い結果を確認するためにだけ“走れ!”と)、
ムリだとわかったので、多義的な読みとり(選択肢)を作家が自覚的にに配置し、どれを選ぶかは見る人に委ねるシュールレアリズム(少なくともダリはそうだ)
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ライフ・オブ・パイもそれに近いかな。(でも考えなしの口から出任せOK、なんでもアリ というのとは違うぞ)
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ほんでピカソキュビズム(立体主義)
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人間の脳は、立体を認識するとき、視覚だけ(証明写真のような機械的な切り取り方)で処理しているのではなく、意識の補正を加えて認識している。
例えば、モデルの女性が、正面からはそれほど巨乳に見えなくても、記憶の横乳から、この人は巨乳のはずだと認識する。描く場合は、意識的に影や服のしわで巨乳感を出す。
その脳内の補正を誇張して描いたのがピカソキュビズムシュールレアリズム時代。だから横顔に正面向きの目がついてたり、横乳と正面乳が同居しているボディを描いたりするわけです。
キュビズム時代は人体を角張った直方体みたいに書いて3Dの奥行きや量感を描き出す試みで、その後、前述の脳内補正や、動き(カメラのシャッターを切る瞬間、被写体が動いて顔が2つに写ったり、グニャってへんな曲線に写る)を捉える絵に挑んだ頃をシュールレアリズム(超現実主義)の時代と分類されているようですが、一貫した試みのように思える。私には。
3D+時間(動き)は、果たして超現実なのか?
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わけわかんないけど世間的に評価が高い(値段も高い)作品を「シュールだなあ」っていう人多いけど、ピカソは論理的で意味のある実験をしていると思うんです。
(ギャグにマジレスしてたら笑い者になるのは私だが)
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んで、なんで印象派・野獣派からピカソ(立体派)にまで話をつなげたのかというと、ピカソに先駆けて視点の交錯を実験的に描いたのが、
ベラスケス(1599-1660)の「侍女たち」
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『侍女たち』1656-7年

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ちょっと見、ふつうの宮廷人たちの肖像画のようですが、視点が複雑に入り組んだ、実験的な画期的な作品です。ビリヤードのように反射・交錯する視点にインスパイアされて、ピカソは何枚も「侍女たち」の模写を描いているそうです。(うけうり)
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萩尾望都
『思い出を切りぬくとき』

  ↑私はこの本で知りました。
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興味を持った方は各自おぐぐり遊ばして。
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『侍女たち』についてはフランスの哲学者フーコーが論文1本書いている。新潮社『言葉と物』収録。
ボルヘス引用の序文が大爆笑で発作的な笑いが止まらなくなる。中国の動物図鑑すげぇ
エルンストの絵『これはパイプではない』についての論も面白かった。

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で、そのベラスケスから約1世紀後、
ウィリアム・ブレイク(1757-1827)は3D水彩画ともいうべきとんでもない絵を描いている。
たかが(といったら失礼だが)画用紙に鉛筆と水彩絵の具で描いただけの絵から、陽炎のように幻影の両手が現れるあの凄みをどう説明したら
よいものか。
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※ブレイクはダンテの『神曲』の挿し絵(水彩)を連作で描いていて、『地獄編』の中の聖職売買者が炉に投げ込まれる場面です。
遠景(サムネイル)だと、罪人の足首をつかむ両手が見えるんですけど、近くによると炎や火花と混然となって、見えざる神の手になる。
ダリのだまし絵(ダブルイメージ)と同じ手法なんですが、昔の人には魔法みたいに見えたんじゃないかしら
ロンドンのテイト・ギャラリー所蔵。ロンドンに行く機会があったら、あるいは、日本に展覧会で来る機会があったら 是非ご覧あれ。(これが死にかけの病床で描いた絵だっつんだからまったく)
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集英社文庫のダンテの『神曲』でもみれる。訳は寿岳文章氏。
ただし文庫の挿し絵はモノクロ。
ハードカバーならカラーだけど、地獄編・煉獄編・天国編 各々一万円以上する(泣
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ブレイクは詩人でもあるので、名言・至言は幾多あるのでございますが、その中に「窓がものを見るのでは無いように…」というのがある。
「私たちは窓を通してものを見る。窓がものを見るのではないように、私たちは目を通してものをみている。」
(目がものを見ているのではなく、あるいは、目でものを見ているのでもない の意).
じゃあ、私たちはどこにいるの?
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現代なら、目はスキャナ(画像データ入力装置)。スキャナから入ってきた画像データを脳(演算処理装置)で解析して、記憶(データベース)に保存して…、
という説明ができるが、18-19世紀にこの先見性はなんなのだ!? ものの見方、捕らえ方を2〜3世紀先取りしているようだ。
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ほんで〜、我ながらバカっぽい空想だけど、ブレイクの逸話や仕事っぷりを知れば知るほど、漫画の『仁』とかみたいに、百年以上昔にタイムスリップした人みたいだな〜と思う。
独自に編み出した版画の技法を「死んだ弟が天使になって現れ、教えてくれた」と語った、とか。んんん?なにそれ??? なエピソードも多いのですが、昔の人間にきちんと説明しても理解してもらえないので、しかたなく、天使が、神のお告げが、と説明したんじゃなかろうか?
江戸時代の人に、スマホを説明しようと思ったら、霊験あらたかな弘法大師様のお札[おふだ]とか言うしかないもん。
(空想です。ただの)
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時代先取りの天才・鬼才なので、左右の視界のズレで立体感を認識する、ということを意識的にか本能的にか会得していて、それを画面に再現したのではないかと思います。
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ちなみに、ブレイクの画集としてオススメなのはこれ。



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今で言うディエゴスティーニみたいなヤツ。リーズナブルで、図版もたくさん。ツボを心得た時代背景の解説が充実。
amazonで、「ウィリアム・ブレイク」とか「ブレイク画集」の検索ワードだとヒットしません。
「週刊グレートアーティスト ブレイク」で検索ください。
今日(うp日 2015/7/02 現在、古本¥36〜)
高騰or品切れにならないうちに買っとく人が勝ち組(私基準)
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あと、画集ではないけれど、前述のダンテの『神曲』のブレイクの連作が見れるので、
↓これもおすすめ
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神曲』ダンテ著 寿岳文章
集英社文庫ヘリテージシリーズ
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画期的労作と誉れ高い。この訳のいいところは、詩の格調高さと文意のわかりやすさのぎりぎりの折衷。
加えて、各章のはじめにに、この章ではどういう内容がかかれているか、通常文であらすじが書いてあるので、この先どういう展開になるのかイライラしないで済みます。
あらすじだけ先にまとめて読んで、大まかに全体の流れをつかんでから詩文を読みはじめたほうが、理解しやすいかもしれません。
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岩波の『神曲』はダンテのアクロバティックな詩形式(三行連句)を忠実に再現した上級コースで、格調高いのですが、む、難しすぎる。
漢詩の五言絶句七言絶句を解説無しでスラスラ読んで味わえる人向け。
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寿岳文章訳は、漢文に例えると、書き下し文+解説 ぐらいの難易度かな
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Amazonレビューでは圧倒的に河出文庫平川祐弘氏の訳本が支持されているようだけれど、これだともう小説みたいで、わかりやすさと引き替えに何かを失ったような気がする。
寿岳訳に対して、三行連句の訳になってないと批判した人がいたが、平川訳は許せるのか?
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ウェルダンとレアの中間のミディアム・レアを調度良いと評価するか、どっちつかずと批判するかの違いかな。
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安野光雅氏の『手品師の帽子』では、寿岳文章訳を誉めてましたっけが。
(ちな、『手品師の帽子』?持ってるよ。『旅の絵本』も全部もってる、という人とはイイ酒が飲めそうだ)
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…なんでこんなに風呂敷広げちゃったんだろ。
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つまりこれです。
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【虎とルオーと蓮の花とブレイクと寿岳文章
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つづく
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